はじめに

顔ダニは素敵だ。
最も身近にいる虫なのに誰も気づかない。
人知れず顔の上に住んでいる。

顔ダニは愉快だ。
人の顔の上で生まれて、生長して、交尾をして、卵を産んで死んでゆく。
まるで、顔が一つの惑星のようだ。

顔ダニは痛快だ。
顔の美醜に関係なく、彼らはそこに住んでいる。
人間がどんなに取り澄ましても、顔の上にダニを飼っているのだ。

でも、このダニは、あなたを愛した人から伝わり、
あなたの愛する人間にひきつがれていくものなのだ。

顔ダニは有害か?

顔ダニ(ニキビダニ)に病原性があるかどうかという点については議論のあるところである。
ほとんどの人に寄生しているといわれているので、病変部から発見されただけでは原因と断定できないのが難しいところだ。

病原性ありという立場では、
1.ニキビから多数の顔ダニが発見される場合がある。
2.丘疹・膿疱等の患者で顔ダニが多数寄生している場合、これを薬剤により駆除すると疾患が治まることがある。
ということから、病原性を認め、「ニキビダニ症(毛包虫症)」と名付けている。

一方、病原性なしという立場では、
1.ほとんどの人に寄生しており、特に肌のトラブルのない人にも寄生している。
ということが最大の論拠であり、過剰寄生によって障害が発生した場合でも、免疫力低下など顔ダニの繁殖を促す要因が真の原因であり、厳密には病原性があるとは言えないのではないかと主張している。

このように、学術的な意味で病原性があるかどうかは議論のあるところだが、何らかの原因で過剰に増殖・寄生するとトラブルが起きるというところに落ち着いているようである。

では、なぜ過剰寄生がおこるのか?
ニキビダニ症の好発年齢は中年期以降ということで、加齢により寄生数が増えるといわれている。油の抜けかかる頃に増えてくるのである。これをみると顔の脂っこさは、あまり関係ないように見える。
一方、過剰寄生がおこっていたケースでは、ステロイド剤の多用によるケースが多いらしく、またHIV等免疫不全を伴う病気により過剰寄生がおこるという報告もあり、免疫力の低下が決定的な役割を果たしているようだ。


顔ダニの病原性は、寄生される側のコンディションに大きく左右されるようであるが、これは何も顔ダニに限ったことでない。他のほとんどの疾患も同様だろう。すなわち、バランスのとれた食事や十分な睡眠という基本的な事が大事なのだ。偏食をやめ、ぐっすり寝ることが体にも肌にもよいというのは常識なのだが、その常識の範囲内でおおかたの人は顔ダニだけでなく多くの肌や健康のトラブルを抑えることができるのである。

しかし、私を含めそうはいかないのが人間の悲しいところである。今問題になっているメタボリック症候群も単に食べ過ぎなければすぐ解決できる事なのだが、この簡単なことができない。また、仕事ならまだしも、テレビやネットなど特にやらなくてもいいようなことで夜更かししてしまう。さらにタバコに深酒…。こうした人間の気ままな行動が新しい疾病を作り出しているのだが、きっと顔ダニもその一つなのだろう。人のわがままによって顔ダニ大虐殺のはじまる日も近いのだろうか。

おそらく顔ダニは、人間がネズミだった頃から寄生していたと思われる。
したがって人体の方も顔ダニが居るという前提のもとで、免疫システムなどを組み立てて来たはずである。
「花粉症は寄生虫が居なくなったからおこった」という寄生虫学の藤田紘一郎博士の指摘を考えると、顔ダニを完全に駆除した場合、思わぬ障害が発生することも考えられる。一見、有害あるいは無関係に見えても、あまり手出しをすべきではないのではないだろうか…。

「寄生虫妄想」について

「寄生虫妄想」とは、その名の通り寄生虫が皮膚その他体内に寄生(外部寄生含む)し、加害していると思いこむ妄想。
普通は、原因が分からないまま体がカユかったりすると「ダニかな?」なんてチラッと思ったりするのだけれど、医者へ行って「老人性乾燥肌ですね」などと言われると、それなりに納得してしまう。しかし、一部には、いくら論理的に説明しても、これに納得せず寄生虫に寄生されている事を主張し続ける人たちがいて、これらを称して「寄生虫妄想」と呼んでいるようだ。

これらの人々の多くは、「寄生されているという不合理な確信」以外は正常で、この点、体臭恐怖や醜形恐怖との類似性が指摘されている。また、精神科を受診することを極端に嫌がり、自分の正しさを証明するため研究機関や大学などを回って賛同してくれる専門家を探して回ったりする。

発症の原因としては、

1.社会的・心理的要因

連れ合いとの死別や離婚・子供の独立・退職等、社会的孤立が契機となって発症。患者は一般に比べ独居率が高く、また年齢別発症数では、男性が60〜64才、女性が50〜54才にピークがあることも社会的孤立が発症の誘因であることを支持していると思われる。

2.精神病的要因

「寄生虫妄想」の精神医学的位置づけ自体、諸説があるらしい。たとえば統合失調症などにも「寄生虫妄想」が現れる場合があるが、これを独立した疾患と見るか、統合失調症の1症状と見るか意見が分かれるようだ。また前述のように体臭恐怖や醜形恐怖との類似性から、これらとひとくくりにして分類する事もあるらしい。

3.薬物中毒

麻薬中毒などにより、鼻や耳の穴から虫が出てくるという妄想を持つ例が見られるという。どちらかというと幻覚に近い?

4.身体的要因

更年期障害や糖尿病、甲状腺機能低下、ビタミン不足など、様々な疾患が契機となって発症するといわれており、これら疾病の軽減とともに寄生虫妄想も治癒するという例が見られる。

5.他者からの感応

家族間、稀に職場などで一人の発症が発端となり、この人の影響を受けた身近な人が影響を受け「寄生虫妄想」に引き込まれる場合があるという。


顔ダニの場合は、いて当たり前なので大滝らの言うように「寄生虫症妄想」(寄生虫に加害されているという妄想)と呼ぶのが正確であろう。

実のところ、この「顔ダニの部屋」立ち上げにあたっては、この「寄生虫症妄想」を喚起するのではというのがいちばんの心配事である。
画像を見る → 顔がかゆい → 加害されている? → 寄生虫症妄想
コンテンツを見てもらえれば、気がつかなかっただけで大昔からみんなに寄生してきたこと、ほとんど人にとっては無害なことは分かってもらえると思うのだが…。

このサイトの画像を見て、急に顔がカユくなっても、それは気のせいですから…。


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