観察法

採取

文献では、セロハンテープや接着剤を使って採取したり、ナイフなどで角質ごとこそぎとるといった方法が見られるが、手軽に多数を採取したい場合は、爪などで皮膚を圧迫すると出てくる糸くずみたいな脂肪を集めて見るのが手っ取り早い(←汚くてゴメン…)。

ただ、爪を使って脂肪を押し出すのは、雑菌が皮膚に入って化膿しやすいため、あまり推奨できる方法ではない。文献では「面疱圧子」なる器具を用いて脂肪を押し出すという記述が見られるので、これが正式(?)なやり方のようだが、素人が医療器具を使うというのもあまり推奨できない気もする…。

ちなみに、ナショナルの毛穴吸引器が3,000円くらいであったので、これも使ってみたが吸引力が弱くサンプルが採取できなかった。これを使えば、発生消長など定量的な計測ができるかもと期待したのだが…。

顔の上の分布については、いわゆるTゾーンに多いといわれており、私の場合は、鼻・鼻翼部・頬などから採取している。
採取する部位は、特にニキビである必要はない。ニキビダニが顔ダニの正式な和名だが、特にニキビに限って寄生している訳ではなく、普通に毛穴にいる。 ただ、脂肪が固まり角栓化したものについては、生育できないようで、毛穴パックをつかって採取したサンプルからは、顔ダニを見つけることはできなかった。
左がナショナルの毛穴吸引器「スポットクリア リセ」。結構期待したのだが、脂肪をゴッソリというわけにはいかなかった。
まあ、考えてみれば、そこまで激しいことをやっちゃうと、かえって肌は傷むだろうだろうから、当然といえば当然なんだろうな…。

検鏡

●採取した状態の顔ダニは脂肪と混じった状態で、水を使ってマウントしようとしても水の中に分散しない。
●そのままカバーグラスをかけても、見えないことはないが、脂肪の塊が邪魔をして観察しにくいことこの上ない。

ということで、採取した顔の脂肪はスライドグラスの上に滴下した油の中に入れ、ピンセットの先などでほぐして分散させる。

ピンセットの先に付着しているのが顔から採取した脂肪。汚いものをお見せして申し訳ない…。
なぜかホールスライドグラスを使ってます。
油に脂肪を分散させる。
水だと固まったままで分散しない。
そのままだと、脂肪だの産毛だのゴミが多いので、1匹ずつ釣り上げ、きれいなマウント液のなかに移動させて写真を撮影している。

釣り上げには、下の写真のような「超精密ピンセット」や「マユゲを楊子に貼り付けたもの」を使い、40倍の顕微鏡下で操作をおこなっている。

幼虫・第一若虫は柔らかいのでマユゲに引っかけて釣り上げることができるが、体がしっかりとしている第2若虫・成虫や引っかけるこのできない卵などはピンセットでマウント液ごとすくい取って移動。

しかし、ピンセットを使うとゴミもいっしょに持ってきてしまうし、ダニをつぶしてしまうこともあるのでなかなか難しい。また、極細のピンセットとはいえ、光学顕微鏡下では大きいので、液が移動して卵などでは見失ってしまうことも多い。

そして何といっても問題なのは、上下逆さまの像を見ての作業。実体顕微鏡を買っちゃおうかと思案する今日この頃…。
上で作成したものを検鏡したもの。
これで倍率は40倍。

ゴミが多く観察しにくい。
釣り上げ作業中。

上下逆になるので厄介だ。そろそろ慣れるかなと思ったりもするが、慣れないよなあ。

でも、急いで上げないと幼虫などは縮んでいってしまう。あせるー。
ピンセット 愛用の「超精密ピンセット」は片側の刃が「くの字」型に曲がっているIDEAL-TEKの「No.5TTH」という型番のもの。落っことすと一発でいっちゃいそうなので、予備用が欲しいところだ。

マユゲつき楊子はダニのことを調べていたときに、どこかのサイトで見つけたもの。そのときはチョットしたトリビアかと思ったが、自分で使うようになるとは…。
ちなみに紹介されていたのはマツゲだったかも。まあ、マユゲの方も、毛の先が尖っていて細かい操作が可能です。

マウント液について

顔ダニの観察を何回かしていて気づいたのだが、観察中に顔ダニが萎んでいく。

成虫や第2若虫については、外骨格がしっかりしているせいか、あまり変化は見られないが、幼虫と卵については、しばらく置いておくと、見るも無惨な有様になる。特に卵にいたってはモヤモヤしたカスみたいなものになってしまう。

原因としては、マウント液として使っているサラダ油が顔ダニに影響を与えていると思われるので(というか、それ以外の原因が思いつかない)他の油も試してみることにした。

特に動物質の油について試してみたいということで、常温で液体の動物性油というのを探していたら、たまたま民間薬の「馬油」を見つけた。一般のものは常温では軟膏状だが、融点の低い成分を精製したものがあり、さっそくこれをネットで取り寄せてみた。

さらに、これまた、たまたま家にあった化粧用のホホバオイルも試してみることに。

結果

・サラダ油
 幼虫、卵については30分くらい(気温によって進行速度が異なるようである)から胸部が萎みはじめ、1時間後には腹部まで萎んだ。

・馬油(ばーゆ)
 1時間程度では目立った変化はなし。2時間あたりからやや萎みはじめ、3時間後にははっきり分かるくらい胸部が萎んだ。また、卵や孵化したばかりの幼虫については、3時間後には死滅していた。

・ホホバオイル(化粧用)
 サラダ油と同等。ただ透明度が高いので、光学性能はこっちが上か(笑)。

ということで、植物油2種に比べ、動物質の馬油が顔ダニに与えるダメージが若干少ないことが分かった。
今回使った馬油は融点の高い成分を精製したものなので、組成が普通の獣脂と比べかなり違うということは言えると思う。検鏡は難しいが、次回は普通の馬油を使って萎むかどうか実験してみたい。

※顔ダニの萎縮については温度もかなり影響する。今回の実験では室温20℃程度でおこなったが、5℃程度の場合はサラダ油でも1時間以上原型を保っていた。
マウント用オイル 左から馬油(バーユ)、ホホバオイル、サラダ油。

ホホバオイルは北米産の木の実からとれる油で化粧品の他工業用にも使用されるという代物。

馬油はその名のとおり馬からとった油で民間療法に使用されている。普通、常温では半練り状態なのだが、ソンバーユ(株)の商品のなかに「液状」のものがあってこれを使用。

サラダ油は、まあ普通のサラダ油ですな…。

●サラダ油によるマウント

サラダ油により萎んでしまった幼虫。(マウント30分後)
まず胸部から萎みはじめる。
マウント1時間後。
腹部までつぶれてしまっている。

●馬油によるマウント

馬油によるマウント2時間後。
馬油を使用した場合でも、収縮は見られる。
3時間後。胸部が萎んでしまっている。
左はマウント直後で右は3時間後。
特に卵や生まれたばかりの幼虫はダメージが大きい。


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